パラレルワールド2
『パラレルワールド』
全く同じ人物
全く同じ世界
でも違うものがある。
全く同じ人物
全く同じ世界
でも違うものがある。
ルイ
「ごちそうさまでした。」
ジェスター
「ごちそうさまー」
キュピル
「こんな物で本当にすいません」
ルイ
「いえ・・。泊めてもらった上に食事まで出してもらって・・・」
キュピル
「でも簡単な料理ですので・・・」
食卓に並べたのは適当な安い肉を火で炒めてそれに少し野菜を添え
味噌汁とご飯を用意した至ってシンプルなメニュー。食べざかりの人だと足りないと思う。
ジェスターは物凄く小食だからいいけど・・・。
ルイさんは目が見えない。
それなのに普通に箸を使って食事をしていた。人は目が見えなくなるほど感覚が研ぎ澄まされて
何処に何があるのか大体分るという話を聞いた事があるけど・・・ルイさんに会うまでは全く信じていなかった。
人間とはすばらしいものだ。・・・ん?
キュピル
「・・・おや、ジェスター」
ジェスター
「・・・・」
キュピル
「こら、黙らない。」
再び積み木遊びしようとしているジェスターを抱きかかえてさっき座っていた椅子に乗せる。
キュピル
「また野菜だけ残してる・・・。便秘になってお腹いたくなるよ?」
ジェスター
「だって美味しくないもん・・・」
ルイ
「サラダですか?」
キュピル
「そうです」
ルイ
「ジェスターさん。耳貸してください」
ルイがジェスターの耳元で何か喋る
ジェスター
「・・・ほんと?」
ルイ
「ええ」
ジェスター
「・・・頑張って食べる」
そういってサラダを嫌そうな顔しつつも食べ始めた。
キュピル
「一体何を言ったんですか?」
ルイ
「ふふ、秘密です」
キュピル
「あらら・・また秘密か」
残念そうなリアクションを取っ手見るけど気は変わらないようだ。
キュピル
「さてと、明日も早いのでそろそろ自分は寝ますね。
お風呂や部屋は自由に使っていいので適当な時に寝てください」
ルイ
「ありがとうございます。おやすみなさい・・」
ジェスター
「おやすみ」
キュピル
「うん、おやすみ」
自分の部屋に入る。
さっき軽くシャワーを浴びただけだが別にいいや。
パジャマに着替えてベッドの上に寝る。・・・今日はかなり歩いたから疲れている。すぐ寝てしまった。
==翌日
コンコン
コンコンコン
キュピル
「ん・・・ノック?」
時計を見る。午前3時・・・。夜中だ・・・。
この感じは・・・玄関だ・・。部屋じゃない・・。
パジャマの上からコートを着て玄関の扉を開ける。
キュピル
「どちらさまで・・・」
ルシアン
「キュピル・・・大変なことになった」
キュピル
「ルシアン先輩・・。こんな朝早くに・・。一体何があったんですか?」
ルシアン
「寝ぼけてるかもしれんがよーく聞いてくれ。隕石の軌道が変わった」
キュピル
「・・・え!?」
思わず目が覚めた。
キュピル
「ってことは地球は消滅せずに済むんですか!?」
ルシアン
「残念だが違う。・・・早まったんだ」
キュピル
「・・・どうして?」
ルシアン
「今までの観測だと地球の周りをグルグル回り続けて最後に衝突するっていうルートだったんだが
小さな隕石とぶつかって軌道が少しだけずれたらしいんだ・・・。
そのおかげで隕石と地球は直撃コースになっちまってな・・・。二年かけてグルグル回るはずの隕石が
そのままやってくることになっちまったってわけさ」
キュピル
「・・・これはパニックが起きますね・・・」
ルシアン
「キュピル。お前の言う通りだ。朝になって住民が目を覚ましたら恐怖と緊張で
すぐさま地球から逃げようとするだろう。政府も焦っているみたいだ。あと三年かけて住民全員を移住させる
つもりだったようだが残り一年となると全員移住させるのは少し難しいらしい」
キュピル
「・・・ますますパニックが起きますね」
ルシアン
「俺達は既に手続きを全て済ませている。キュピル、もちろんお前の分もだ。
今行けばすぐに地球から出れるぞ。どうする?」
キュピル
「・・・猶予はどのくらいですか?」
ルシアン
「返事は今欲しい」
キュピル
「・・・。」
苦渋の選択だ。
確かにまだ死にたくはない。しかし移住できなくなる可能性があるってことはそのまま逃げれず
死ぬ可能性があるということ・・・。
・・・五分悩んだ結果
キュピル
「・・・ごめんなさい。約束が残っているのでその約束を済ませてから移住します」
ルシアン
「・・・約束?」
キュピル
「はい。・・ルイさんをライディアに送らないといけないので」
ルシアン
「おいおい、赤の他人だぜ?」
キュピル
「まぁ、そうなんですけど・・。あと凄く言い難い事が・・・」
ルシアン
「何だ?まさかやっちまt・・・」
キュピル
「だからそういう発想しないでください。ジェスターの分の手続き終わらせてないんです」
ルシアン
「・・・はぁ!?」
キュピル
「だから今ここで移住するとジェスターを地球に残してしまうことになって・・・。
それだけは可哀相すぎて・・・。」
ルシアン
「・・まぁ、確かにお前の両親がヒョヒョーイと行っちまってからずっと二人で生活してたからな・・。
・・・。仕方ない・・、俺達はもう移住しちまう。新しいコロニーで会社を運営してる。これが住所だ」
先輩から新しいコロニーの移住先の住所を貰った。
ルシアン
「それと今ナルビクにある会社は今日一杯で終わりだ。」
キュピル
「・・・廃業ですか?」
ルシアン
「正式には移転だけどな。あーあ・・あそこには一杯の機材がつまってるってのになぁ・・。
宇宙の航空に問題を起こすから機材はもってけないんだよなぁ・・・」
キュピル
「・・・あの。移住するまでその会社使っていいですか?」
ルシアン
「ん?何でだ?」
キュピル
「確か会社には既にコロニーと連絡をとる機材がありましたよね?僕は最後の最後まで地球の残って写真を撮って
それを記事にしたいんです。・・・出来た記事をその装置を通して新しい会社に届けば・・・」
ルシアン
「・・・なるほど。もう今日から地球に残ってる人は一気に減るからな。それなのに地球でまだ活動を続けている人がいると知れば・・・。わが社の人気も少しあがるやもしれん・・・。
わかった。メリッサ社長に言っておくよ。」
キュピル
「助かります」
ルシアン
「会社は今日はまだ人がいるはずだ。キュピル、お前の移住関係の書類が会社にあるから取りにいくといい」
キュピル
「わかりました」
ルシアン
「じゃあな、キュピル。コロニーで待ってるぜ」
キュピル
「はい。長い間会えなくなるのが・・少し寂しいです」
ルシアン
「ハハハ!んじゃ、感動の再会を楽しみにしてるぜ」
額をこつんと叩かれる。思わず笑ってしまった。
そしてルシアン先輩は何処かに行ってしまった。
キュピル
「(・・・今日から忙しくなりそう)」
この予想は的中した。
朝、もういちど起きた時外は偉い騒ぎになっていた。
次々と住民が移住しようと各地にある宇宙ステーションへ殺到し始めた。
しかしまだ地球に残ろうと決心した僕にとっては全く問題ない。ちょっと五月蠅いだけだ。
ルイ
「ニュース聞きました・・・。衝突まであと一年になったみたいですね・・・」
ジェスター
「・・・怖い・・」
キュピル
「大丈夫だよ、ジェスター。」
震えるジェスターを抱きかかえて椅子に座る。
ルイ
「困りました・・・」
キュピル
「ん?」
ルイ
「実は・・・私まだ移住の手続き済んでないんです・・・」
キュピル
「・・・そりゃ大変ですね・・・。恐らく三か月ぐらいはもう混雑しっぱなしだと思いますよ」
ルイ
「とりあえず今日ライディアに帰って色々と準備しないといけません・・・。」
キュピル
「よし、そいじゃさっそく行こうか」
ジェスター
「キュピル・・。私も今日は一緒に行っていい?・・なんか家にいるの怖い・・」
キュピル
「そうだなぁ。今日は仕事じゃないしいっか」
ジェスターの髪がゆさゆさと動く。嬉しくなると髪を動かす癖がある。
頬にあたってくすぐったい。
キュピル
「もしかしたら会社にあるバイクが使えるかもしれませんね・・・。
一旦会社によっていいですか?」
ルイ
「構いません」
三人とも自宅を出て会社に向かった。
==ナルビク・タイムズ
メリッサ
「もーなんなのよーこれ!」
ブデンヌ
「これは予想していなかったな・・・」
キュピル
「おはようございます」
ブデンヌ
「む、キュピル。ルシアンから話は全部聞いてる。お前も大変だな」
キュピル
「そうでもないです。今凄くドタバタしてるみたいですけど
半年もすれば流石に落ちつくはずですよね?」
メリッサ
「・・・ところがそうもいかないみたいなのよー・・・」
キュピル
「どういうことですか?」
ブデンヌ
「キュピル。宇宙へ旅立つ民間船は今では普通に見かける存在となった。しかし便が少ないのは知っているだろう?」
キュピル
「はい」
ブデンヌ
「民間船は一度に50人しか乗れず今我々がいるこのアノマラドにたったの六ヶ所しかないのだ。
そのうちの一つはここナルビクにあるのだが・・・」
キュピル
「確かに少ないですけど往復すれば・・・」
ブデンヌ
「知らないのか?民間船は燃料の問題で一日三便しか出ないのだぞ」
キュピル
「・・・三便!?・・・ってことは計算しても・・・。」
メリッサ
「アノマラドからじゃ一日900人しか宇宙へ移民できないっていうことよ。」
ブデンヌ
「ついでに一年で32万8500人しか移住できない。我が国はおよそ52万2400人いる。」
キュピル
「・・・単純計算でも20万人は・・地球に取り残されるってことですか・・・?」
メリッサ
「でも流石に政府も対策は講じてきたわ。無理やり便を増やすとか定員オーバーを許可するとかね」
ブデンヌ
「政府では一応国民全員を収容する計画は既に出来上がってるそうだ。・・本当なら心配いらない。
分ってると思うが宇宙船は自国からしか乗れないからな」
キュピル
「わかってます」
メリッサ
「私とブデンヌは今日の便で出発するわ。新しい会社を早く立ちあげないといけないしね」
キュピル
「今度の会社は大きいですか?」
ブデンヌ
「・・・立地は良いが・・小さいのが悔しい・・・」
キュピル
「・・・まぁ・・・頑張りましょう」
メリッサ
「キュピル君。ルシアンから聞いてると思うけどここにある会社の機材は持ち出せなかったの。
だからここにある機材は自由に使ってもいいわ。半年ぐらいまでここに残るんでしょ?」
キュピル
「はい」
メリッサ
「記事が出来上がったらあの装置から新しい会社に送信して頂戴。こっちで記事に盛り込むわ。
きっと人気でるわよー?今日で殆どの会社が移転しちゃうから」
キュピル
「期待にこたえるよう頑張ります」
メリッサ
「キュピル君が必要になりそうな書類はすべて貴方の机に上に置いておくわ。
・・・それで、今日はどうするのかしら?」
キュピル
「ルイさんをライディアに送ります。・・それでバイク使えませんか?」
ブデンヌ
「バイクか。あのバイクはルシアン専用なのだがあいつはもう居ないからな。
キーはここにある。自由に使っていい」
キュピル
「ありがとうございます」
メリッサ
「三人乗りねー・・。ちょっと危ないわね」
ブデンヌ
「ジェスターは小さいからお前の膝に乗せてベルトでしっかり固定してやれ」
キュピル
「はい。それではさっそく行ってきます」
メリッサ
「あ、そうそう。午後四時から私達ここの会社を出るわ。どう?帰ってこれそう?」
キュピル
「・・・状況によりますね」
メリッサ
「そう・・。じゃぁ今のうちに言っておくわ。キュピル君。新しいコロニーで待ってるからね」
ブデンヌ
「乗り遅れるなよ」
キュピル
「はい。」
会社の外に待たせていたルイとジェスターの元に行く。
メリッサ
「総業8年・・。短かったわねー・・。ここのビルも」
ブデンヌ
「・・・そうだな」
キュピル
「バイク借りれました。これに乗ればすぐライディアに到着できるはずです」
ルイ
「私バイクになんて乗ったことないけど・・・大丈夫かしら・・」
確かに目が見えない人にとってはかなり怖いかもしれない。
キュピル
「しっかり僕に掴まっててください。なるべく安全運転で行きますから」
ジェスター
「私は?」
キュピル
「ジェスターは小さいから膝の上に乗せるよ。掴む場所ないからベルトで固定しちゃうけど」
ジェスター
「うん」
二人乗り用のバイクにまず先に乗る。次のジェスターを膝の上に乗せてベルトでしっかり固定する。
少し座り難そうだけど我慢してもらおう。
最後にルイを乗せる。
キュピル
「しっかり掴まっててくださいね」
ルイ
「はい」
お腹の辺りに手がやってきてぎゅっと抑えつけてきた。ち、力強いな・・・。
エンジンを始動させてさっそく移動を始めた。
==クライデン平原
ジェスター
「わぁー」
ジェスターの髪がボサボサとなびく。
多分ルイもそうなんだろうけど後ろ見たら確実に事故を起こす。
バイクなんて若い頃免許取った時しか乗った事ないので正直言うとかなり久しぶりだ。
しかし一本道が続くので運転技術はさほど必要なかった。
キュピル
「(いつもはここを走っていくんだよね・・・。バイクって凄い便利・・・)」
いつもなら三時間かかるところを三十分でやってきてしまった。恐るべしバイク。
キュピル
「(・・・・・)」
地球消滅まで後一年・・・つい昨日まであと三年だと思っていたのに・・・。
何だか一瞬で二年過ごしたような気分だ。
そう考えると今まで何気なく見ていた景色が珍しく見えた。
・・・この道を死ぬまで歩く事が出来る・・・そう思っていた。
でもこの道はもう歩けなくなる・・・。
一期一会っていう言葉があるけど今だけその言葉は人じゃなくて道にも言えるような気がした。
たったの4時間でライディアに到着した。
==ライディア
ライディアは昔森林に囲まれた小さな集落だった。
しかし経済の発展により大規模な森林伐採を行いその結果環境問題は残っているが
ナルビクをも超える巨大な都市となった。
キュピル
「家はどちらですか?」
ルイ
「南口から入ったと思うので・・えっと、しばらくすると大きな交差点が現れるので
そこを左に曲がってください」
ちょっと進むと大きな交差点を発見した。そこを左に曲がる。
ルイ
「この道路の突き当たりにある家が私の自宅です」
キュピル
「わかりました。それにしても凄いですね、ルイさん。こんな大きな街に住んでるだなんて。」
ルイ
「私の親が有権者だったので。」
キュピル
「ゆ、有権者・・っということは・・・まさか・・」
しばらくすると突きあたりに大きな屋敷が見えた。
・・・突きあたりってか行き止まりじゃないか!この道路はこの屋敷の持ち主専用の道路か!
ジェスター
「わぁー、大きな御屋敷ー。ルイってお姫様だったんだ」
ルイ
「私は・・・ただの一般人です」
キュピル
「・・・?」
今なんで一瞬間を置いたんだろう。
しばらくすると門前に到着した。
ルイ
「後は自分で行けます。本当にありがとうございました・・・。
キュピルさんがいなければここまで来れませんでした・・・」
キュピル
「いやいや。まさかルイさんがお嬢様だったなんて、本気で驚いてしまいました」
ルイ
「・・・」
ルイさんが俯いてる。
・・・やっぱりこの話はしてはいけないのだろうか・・・。
最後に一言だけ言って帰ろう。
キュピル
「多分ないと思いますけどまた会えたら今度一緒に写真取りましょう」
ルイ
「喜んで」
ルイが深いお辞儀をして屋敷の敷地内に入って行った。
キュピル
「せっかくライディアに来たんだしちょっとだけ遊んでいく?」
ジェスター
「うん!」
反転し来た道を戻っていく。
さっきの交差点をそのまままっすぐ進み都市の中心部へと進んでいく。
==ライディア 中心部
ライディアの中心部にやってきた。
このご時世だから殆ど店じまいしたかと思ったが殆ど営業を続けていた。
キュピル
「何か食べたい?」
ジェスター
「アイスー」
キュピル
「よし」
バイクを駐車場に止めジェスターと手を繋いで一緒に道を歩いていく。
営業している店自体は多いが通行人は殆ど見かけない。
近くにソフトクリームを売っている店を見つけ中に入っていく。
店に入るとカウンターに居た店員が驚いた顔してこっちを見た。
店員
「おや・・・。貴方は・・・。キュピルさんじゃありません?」
キュピル
「??。どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
店員
「いや、ありませんよ。いつも貴方のコーナー読ませてもらってますよ。」
キュピル
「読んでくれてるんですか!?ありがとうございます」
思わずお辞儀してしまった。
ジェスターが不思議そうな顔してこっちを見てる。多分何の話してるのか分らないのだろう。
ジェスター
「ねー、アイスー」
キュピル
「うん、今買うよ。すいません、ソフトクリーム二つお願いします」
店員
「あいよ」
そういって店員がコーンを持ってソフトクリーム機の前に立って二つ作る。
・・そういや値段いくらだろう。
店員
「はい、どうぞ」
ジェスター
「ありがとう」
キュピル
「すいません、いくらですか?」
店員
「ん?いいよいいよ。もう今日で店じまいだから」
キュピル
「・・・店閉じるんですか?」
店員
「そうだなぁ・・。もうこの街の殆どの店が閉じると思うよ」
キュピル
「ってことは・・もう明日にでも移住を・・?」
店員
「明日じゃないが今週末にはもう行く予定さ」
キュピル
「そうなんですか・・・」
店員
「キュピルさんは?いつ移住するんだい?」
キュピル
「僕はギリギリまで地球に残って写真を撮り続けようと思っています」
店員
「お、魂がこもってるねぇー・・・。でも粘りすぎて移住するタイミング逃さないようにしてくれよ」
キュピル
「はい。心遣い感謝します。貴方がコロニーに移転しても大体11ヶ月ぐらいまでは地球の写真を記事にして送りますよ」
店員
「そいつはいいな。地球が消滅するその瞬間まで。記事にしっかり乗せてくれよ?」
キュピル
「はい。それではそろそろ失礼します」
店員
「あいよ。またな」
その日、ライディアの有名な所を殆ど回ってみた。
しかし何処行っても人はいなかった。唯一人がたくさんいた場所はライディア宇宙ステーションだった。
ここにいるだけで窒息死してしまいそうなほどの人だ・・。そんなに慌てなくても暫く待てばきっと乗れるのに・・。
気がつけば時間が五時を回ろうとしていた。そろそろ戻らないと自宅に戻った時時間が深夜になってしまう。
キュピル
「そろそろ帰ろっか」
ジェスター
「久しぶりに一緒に外出たのに・・・」
・・・そっか。
考えてみれば最後にこうやってジェスターと一緒にナルビク出たのは・・・もう二カ月か三か月ぐらい前になるのか・・・?
・・・。
キュピル
「・・・でもそろそろ帰らないと。」
ジェスター
「嫌」
その場で立ち止まってしまった。
・・・う~ん・・どうしようか。
・・・あ・・そうだ・・・!
キュピル
「そうだ、ジェスター。明日もまた写真取りにいくけどその時一緒に来る?」
ジェスター
「いいの?」
キュピル
「大丈夫。もう会社自体はほぼ休業したからね」
ジェスター
「やった!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる。なんだかこっちまで笑ってしまう。
キュピル
「さ、帰ろう」
ジェスター
「うん」
バイクに乗りジェスターを後ろに乗せる。
念のためジェスターとベルトを巻いておく。
そしてライディアから出発していった。
結局自宅についたのは夜9時だった。
バイクの鍵を会社に置こうとしたが扉の鍵自体が閉まっていた。
キュピル
「・・・・結局社長と部長に挨拶出来なかったなぁ・・・」
まぁ仕方ない。永遠に会えなくなるわけではない。自宅に帰ろう。
自宅に戻るとポストに何か入っていた。
結構分厚い書類と手紙と鍵が入っていた。
キュピル
「・・・?」
『働き者のキュピルへ
私達はもう今日の夜にナルビクを発ちます。
会社の鍵を同封しておくので好きに使ってください。機材の使い方はその分厚い書類に全て書いてあるので
参考にしてください。コロニーでまた会いましょう
byメリッサ」
キュピル
「感謝します、社長」
ジェスター
「眠い・・・」
キュピル
「眠い?ご飯どうする?」
ジェスター
「(・・・コク・・コク・・・)」
既にもう立ち寝状態に入っている。一日ぐらいご飯抜いても大丈夫だろう。
キュピル
「歯だけ磨いて今日はもう寝ようね」
ジェスターが頷く。
さて、明日からまた写真を撮りに行くぞー!
「ごちそうさまでした。」
ジェスター
「ごちそうさまー」
キュピル
「こんな物で本当にすいません」
ルイ
「いえ・・。泊めてもらった上に食事まで出してもらって・・・」
キュピル
「でも簡単な料理ですので・・・」
食卓に並べたのは適当な安い肉を火で炒めてそれに少し野菜を添え
味噌汁とご飯を用意した至ってシンプルなメニュー。食べざかりの人だと足りないと思う。
ジェスターは物凄く小食だからいいけど・・・。
ルイさんは目が見えない。
それなのに普通に箸を使って食事をしていた。人は目が見えなくなるほど感覚が研ぎ澄まされて
何処に何があるのか大体分るという話を聞いた事があるけど・・・ルイさんに会うまでは全く信じていなかった。
人間とはすばらしいものだ。・・・ん?
キュピル
「・・・おや、ジェスター」
ジェスター
「・・・・」
キュピル
「こら、黙らない。」
再び積み木遊びしようとしているジェスターを抱きかかえてさっき座っていた椅子に乗せる。
キュピル
「また野菜だけ残してる・・・。便秘になってお腹いたくなるよ?」
ジェスター
「だって美味しくないもん・・・」
ルイ
「サラダですか?」
キュピル
「そうです」
ルイ
「ジェスターさん。耳貸してください」
ルイがジェスターの耳元で何か喋る
ジェスター
「・・・ほんと?」
ルイ
「ええ」
ジェスター
「・・・頑張って食べる」
そういってサラダを嫌そうな顔しつつも食べ始めた。
キュピル
「一体何を言ったんですか?」
ルイ
「ふふ、秘密です」
キュピル
「あらら・・また秘密か」
残念そうなリアクションを取っ手見るけど気は変わらないようだ。
キュピル
「さてと、明日も早いのでそろそろ自分は寝ますね。
お風呂や部屋は自由に使っていいので適当な時に寝てください」
ルイ
「ありがとうございます。おやすみなさい・・」
ジェスター
「おやすみ」
キュピル
「うん、おやすみ」
自分の部屋に入る。
さっき軽くシャワーを浴びただけだが別にいいや。
パジャマに着替えてベッドの上に寝る。・・・今日はかなり歩いたから疲れている。すぐ寝てしまった。
==翌日
コンコン
コンコンコン
キュピル
「ん・・・ノック?」
時計を見る。午前3時・・・。夜中だ・・・。
この感じは・・・玄関だ・・。部屋じゃない・・。
パジャマの上からコートを着て玄関の扉を開ける。
キュピル
「どちらさまで・・・」
ルシアン
「キュピル・・・大変なことになった」
キュピル
「ルシアン先輩・・。こんな朝早くに・・。一体何があったんですか?」
ルシアン
「寝ぼけてるかもしれんがよーく聞いてくれ。隕石の軌道が変わった」
キュピル
「・・・え!?」
思わず目が覚めた。
キュピル
「ってことは地球は消滅せずに済むんですか!?」
ルシアン
「残念だが違う。・・・早まったんだ」
キュピル
「・・・どうして?」
ルシアン
「今までの観測だと地球の周りをグルグル回り続けて最後に衝突するっていうルートだったんだが
小さな隕石とぶつかって軌道が少しだけずれたらしいんだ・・・。
そのおかげで隕石と地球は直撃コースになっちまってな・・・。二年かけてグルグル回るはずの隕石が
そのままやってくることになっちまったってわけさ」
キュピル
「・・・これはパニックが起きますね・・・」
ルシアン
「キュピル。お前の言う通りだ。朝になって住民が目を覚ましたら恐怖と緊張で
すぐさま地球から逃げようとするだろう。政府も焦っているみたいだ。あと三年かけて住民全員を移住させる
つもりだったようだが残り一年となると全員移住させるのは少し難しいらしい」
キュピル
「・・・ますますパニックが起きますね」
ルシアン
「俺達は既に手続きを全て済ませている。キュピル、もちろんお前の分もだ。
今行けばすぐに地球から出れるぞ。どうする?」
キュピル
「・・・猶予はどのくらいですか?」
ルシアン
「返事は今欲しい」
キュピル
「・・・。」
苦渋の選択だ。
確かにまだ死にたくはない。しかし移住できなくなる可能性があるってことはそのまま逃げれず
死ぬ可能性があるということ・・・。
・・・五分悩んだ結果
キュピル
「・・・ごめんなさい。約束が残っているのでその約束を済ませてから移住します」
ルシアン
「・・・約束?」
キュピル
「はい。・・ルイさんをライディアに送らないといけないので」
ルシアン
「おいおい、赤の他人だぜ?」
キュピル
「まぁ、そうなんですけど・・。あと凄く言い難い事が・・・」
ルシアン
「何だ?まさかやっちまt・・・」
キュピル
「だからそういう発想しないでください。ジェスターの分の手続き終わらせてないんです」
ルシアン
「・・・はぁ!?」
キュピル
「だから今ここで移住するとジェスターを地球に残してしまうことになって・・・。
それだけは可哀相すぎて・・・。」
ルシアン
「・・まぁ、確かにお前の両親がヒョヒョーイと行っちまってからずっと二人で生活してたからな・・。
・・・。仕方ない・・、俺達はもう移住しちまう。新しいコロニーで会社を運営してる。これが住所だ」
先輩から新しいコロニーの移住先の住所を貰った。
ルシアン
「それと今ナルビクにある会社は今日一杯で終わりだ。」
キュピル
「・・・廃業ですか?」
ルシアン
「正式には移転だけどな。あーあ・・あそこには一杯の機材がつまってるってのになぁ・・。
宇宙の航空に問題を起こすから機材はもってけないんだよなぁ・・・」
キュピル
「・・・あの。移住するまでその会社使っていいですか?」
ルシアン
「ん?何でだ?」
キュピル
「確か会社には既にコロニーと連絡をとる機材がありましたよね?僕は最後の最後まで地球の残って写真を撮って
それを記事にしたいんです。・・・出来た記事をその装置を通して新しい会社に届けば・・・」
ルシアン
「・・・なるほど。もう今日から地球に残ってる人は一気に減るからな。それなのに地球でまだ活動を続けている人がいると知れば・・・。わが社の人気も少しあがるやもしれん・・・。
わかった。メリッサ社長に言っておくよ。」
キュピル
「助かります」
ルシアン
「会社は今日はまだ人がいるはずだ。キュピル、お前の移住関係の書類が会社にあるから取りにいくといい」
キュピル
「わかりました」
ルシアン
「じゃあな、キュピル。コロニーで待ってるぜ」
キュピル
「はい。長い間会えなくなるのが・・少し寂しいです」
ルシアン
「ハハハ!んじゃ、感動の再会を楽しみにしてるぜ」
額をこつんと叩かれる。思わず笑ってしまった。
そしてルシアン先輩は何処かに行ってしまった。
キュピル
「(・・・今日から忙しくなりそう)」
この予想は的中した。
朝、もういちど起きた時外は偉い騒ぎになっていた。
次々と住民が移住しようと各地にある宇宙ステーションへ殺到し始めた。
しかしまだ地球に残ろうと決心した僕にとっては全く問題ない。ちょっと五月蠅いだけだ。
ルイ
「ニュース聞きました・・・。衝突まであと一年になったみたいですね・・・」
ジェスター
「・・・怖い・・」
キュピル
「大丈夫だよ、ジェスター。」
震えるジェスターを抱きかかえて椅子に座る。
ルイ
「困りました・・・」
キュピル
「ん?」
ルイ
「実は・・・私まだ移住の手続き済んでないんです・・・」
キュピル
「・・・そりゃ大変ですね・・・。恐らく三か月ぐらいはもう混雑しっぱなしだと思いますよ」
ルイ
「とりあえず今日ライディアに帰って色々と準備しないといけません・・・。」
キュピル
「よし、そいじゃさっそく行こうか」
ジェスター
「キュピル・・。私も今日は一緒に行っていい?・・なんか家にいるの怖い・・」
キュピル
「そうだなぁ。今日は仕事じゃないしいっか」
ジェスターの髪がゆさゆさと動く。嬉しくなると髪を動かす癖がある。
頬にあたってくすぐったい。
キュピル
「もしかしたら会社にあるバイクが使えるかもしれませんね・・・。
一旦会社によっていいですか?」
ルイ
「構いません」
三人とも自宅を出て会社に向かった。
==ナルビク・タイムズ
メリッサ
「もーなんなのよーこれ!」
ブデンヌ
「これは予想していなかったな・・・」
キュピル
「おはようございます」
ブデンヌ
「む、キュピル。ルシアンから話は全部聞いてる。お前も大変だな」
キュピル
「そうでもないです。今凄くドタバタしてるみたいですけど
半年もすれば流石に落ちつくはずですよね?」
メリッサ
「・・・ところがそうもいかないみたいなのよー・・・」
キュピル
「どういうことですか?」
ブデンヌ
「キュピル。宇宙へ旅立つ民間船は今では普通に見かける存在となった。しかし便が少ないのは知っているだろう?」
キュピル
「はい」
ブデンヌ
「民間船は一度に50人しか乗れず今我々がいるこのアノマラドにたったの六ヶ所しかないのだ。
そのうちの一つはここナルビクにあるのだが・・・」
キュピル
「確かに少ないですけど往復すれば・・・」
ブデンヌ
「知らないのか?民間船は燃料の問題で一日三便しか出ないのだぞ」
キュピル
「・・・三便!?・・・ってことは計算しても・・・。」
メリッサ
「アノマラドからじゃ一日900人しか宇宙へ移民できないっていうことよ。」
ブデンヌ
「ついでに一年で32万8500人しか移住できない。我が国はおよそ52万2400人いる。」
キュピル
「・・・単純計算でも20万人は・・地球に取り残されるってことですか・・・?」
メリッサ
「でも流石に政府も対策は講じてきたわ。無理やり便を増やすとか定員オーバーを許可するとかね」
ブデンヌ
「政府では一応国民全員を収容する計画は既に出来上がってるそうだ。・・本当なら心配いらない。
分ってると思うが宇宙船は自国からしか乗れないからな」
キュピル
「わかってます」
メリッサ
「私とブデンヌは今日の便で出発するわ。新しい会社を早く立ちあげないといけないしね」
キュピル
「今度の会社は大きいですか?」
ブデンヌ
「・・・立地は良いが・・小さいのが悔しい・・・」
キュピル
「・・・まぁ・・・頑張りましょう」
メリッサ
「キュピル君。ルシアンから聞いてると思うけどここにある会社の機材は持ち出せなかったの。
だからここにある機材は自由に使ってもいいわ。半年ぐらいまでここに残るんでしょ?」
キュピル
「はい」
メリッサ
「記事が出来上がったらあの装置から新しい会社に送信して頂戴。こっちで記事に盛り込むわ。
きっと人気でるわよー?今日で殆どの会社が移転しちゃうから」
キュピル
「期待にこたえるよう頑張ります」
メリッサ
「キュピル君が必要になりそうな書類はすべて貴方の机に上に置いておくわ。
・・・それで、今日はどうするのかしら?」
キュピル
「ルイさんをライディアに送ります。・・それでバイク使えませんか?」
ブデンヌ
「バイクか。あのバイクはルシアン専用なのだがあいつはもう居ないからな。
キーはここにある。自由に使っていい」
キュピル
「ありがとうございます」
メリッサ
「三人乗りねー・・。ちょっと危ないわね」
ブデンヌ
「ジェスターは小さいからお前の膝に乗せてベルトでしっかり固定してやれ」
キュピル
「はい。それではさっそく行ってきます」
メリッサ
「あ、そうそう。午後四時から私達ここの会社を出るわ。どう?帰ってこれそう?」
キュピル
「・・・状況によりますね」
メリッサ
「そう・・。じゃぁ今のうちに言っておくわ。キュピル君。新しいコロニーで待ってるからね」
ブデンヌ
「乗り遅れるなよ」
キュピル
「はい。」
会社の外に待たせていたルイとジェスターの元に行く。
メリッサ
「総業8年・・。短かったわねー・・。ここのビルも」
ブデンヌ
「・・・そうだな」
キュピル
「バイク借りれました。これに乗ればすぐライディアに到着できるはずです」
ルイ
「私バイクになんて乗ったことないけど・・・大丈夫かしら・・」
確かに目が見えない人にとってはかなり怖いかもしれない。
キュピル
「しっかり僕に掴まっててください。なるべく安全運転で行きますから」
ジェスター
「私は?」
キュピル
「ジェスターは小さいから膝の上に乗せるよ。掴む場所ないからベルトで固定しちゃうけど」
ジェスター
「うん」
二人乗り用のバイクにまず先に乗る。次のジェスターを膝の上に乗せてベルトでしっかり固定する。
少し座り難そうだけど我慢してもらおう。
最後にルイを乗せる。
キュピル
「しっかり掴まっててくださいね」
ルイ
「はい」
お腹の辺りに手がやってきてぎゅっと抑えつけてきた。ち、力強いな・・・。
エンジンを始動させてさっそく移動を始めた。
==クライデン平原
ジェスター
「わぁー」
ジェスターの髪がボサボサとなびく。
多分ルイもそうなんだろうけど後ろ見たら確実に事故を起こす。
バイクなんて若い頃免許取った時しか乗った事ないので正直言うとかなり久しぶりだ。
しかし一本道が続くので運転技術はさほど必要なかった。
キュピル
「(いつもはここを走っていくんだよね・・・。バイクって凄い便利・・・)」
いつもなら三時間かかるところを三十分でやってきてしまった。恐るべしバイク。
キュピル
「(・・・・・)」
地球消滅まで後一年・・・つい昨日まであと三年だと思っていたのに・・・。
何だか一瞬で二年過ごしたような気分だ。
そう考えると今まで何気なく見ていた景色が珍しく見えた。
・・・この道を死ぬまで歩く事が出来る・・・そう思っていた。
でもこの道はもう歩けなくなる・・・。
一期一会っていう言葉があるけど今だけその言葉は人じゃなくて道にも言えるような気がした。
たったの4時間でライディアに到着した。
==ライディア
ライディアは昔森林に囲まれた小さな集落だった。
しかし経済の発展により大規模な森林伐採を行いその結果環境問題は残っているが
ナルビクをも超える巨大な都市となった。
キュピル
「家はどちらですか?」
ルイ
「南口から入ったと思うので・・えっと、しばらくすると大きな交差点が現れるので
そこを左に曲がってください」
ちょっと進むと大きな交差点を発見した。そこを左に曲がる。
ルイ
「この道路の突き当たりにある家が私の自宅です」
キュピル
「わかりました。それにしても凄いですね、ルイさん。こんな大きな街に住んでるだなんて。」
ルイ
「私の親が有権者だったので。」
キュピル
「ゆ、有権者・・っということは・・・まさか・・」
しばらくすると突きあたりに大きな屋敷が見えた。
・・・突きあたりってか行き止まりじゃないか!この道路はこの屋敷の持ち主専用の道路か!
ジェスター
「わぁー、大きな御屋敷ー。ルイってお姫様だったんだ」
ルイ
「私は・・・ただの一般人です」
キュピル
「・・・?」
今なんで一瞬間を置いたんだろう。
しばらくすると門前に到着した。
ルイ
「後は自分で行けます。本当にありがとうございました・・・。
キュピルさんがいなければここまで来れませんでした・・・」
キュピル
「いやいや。まさかルイさんがお嬢様だったなんて、本気で驚いてしまいました」
ルイ
「・・・」
ルイさんが俯いてる。
・・・やっぱりこの話はしてはいけないのだろうか・・・。
最後に一言だけ言って帰ろう。
キュピル
「多分ないと思いますけどまた会えたら今度一緒に写真取りましょう」
ルイ
「喜んで」
ルイが深いお辞儀をして屋敷の敷地内に入って行った。
キュピル
「せっかくライディアに来たんだしちょっとだけ遊んでいく?」
ジェスター
「うん!」
反転し来た道を戻っていく。
さっきの交差点をそのまままっすぐ進み都市の中心部へと進んでいく。
==ライディア 中心部
ライディアの中心部にやってきた。
このご時世だから殆ど店じまいしたかと思ったが殆ど営業を続けていた。
キュピル
「何か食べたい?」
ジェスター
「アイスー」
キュピル
「よし」
バイクを駐車場に止めジェスターと手を繋いで一緒に道を歩いていく。
営業している店自体は多いが通行人は殆ど見かけない。
近くにソフトクリームを売っている店を見つけ中に入っていく。
店に入るとカウンターに居た店員が驚いた顔してこっちを見た。
店員
「おや・・・。貴方は・・・。キュピルさんじゃありません?」
キュピル
「??。どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
店員
「いや、ありませんよ。いつも貴方のコーナー読ませてもらってますよ。」
キュピル
「読んでくれてるんですか!?ありがとうございます」
思わずお辞儀してしまった。
ジェスターが不思議そうな顔してこっちを見てる。多分何の話してるのか分らないのだろう。
ジェスター
「ねー、アイスー」
キュピル
「うん、今買うよ。すいません、ソフトクリーム二つお願いします」
店員
「あいよ」
そういって店員がコーンを持ってソフトクリーム機の前に立って二つ作る。
・・そういや値段いくらだろう。
店員
「はい、どうぞ」
ジェスター
「ありがとう」
キュピル
「すいません、いくらですか?」
店員
「ん?いいよいいよ。もう今日で店じまいだから」
キュピル
「・・・店閉じるんですか?」
店員
「そうだなぁ・・。もうこの街の殆どの店が閉じると思うよ」
キュピル
「ってことは・・もう明日にでも移住を・・?」
店員
「明日じゃないが今週末にはもう行く予定さ」
キュピル
「そうなんですか・・・」
店員
「キュピルさんは?いつ移住するんだい?」
キュピル
「僕はギリギリまで地球に残って写真を撮り続けようと思っています」
店員
「お、魂がこもってるねぇー・・・。でも粘りすぎて移住するタイミング逃さないようにしてくれよ」
キュピル
「はい。心遣い感謝します。貴方がコロニーに移転しても大体11ヶ月ぐらいまでは地球の写真を記事にして送りますよ」
店員
「そいつはいいな。地球が消滅するその瞬間まで。記事にしっかり乗せてくれよ?」
キュピル
「はい。それではそろそろ失礼します」
店員
「あいよ。またな」
その日、ライディアの有名な所を殆ど回ってみた。
しかし何処行っても人はいなかった。唯一人がたくさんいた場所はライディア宇宙ステーションだった。
ここにいるだけで窒息死してしまいそうなほどの人だ・・。そんなに慌てなくても暫く待てばきっと乗れるのに・・。
気がつけば時間が五時を回ろうとしていた。そろそろ戻らないと自宅に戻った時時間が深夜になってしまう。
キュピル
「そろそろ帰ろっか」
ジェスター
「久しぶりに一緒に外出たのに・・・」
・・・そっか。
考えてみれば最後にこうやってジェスターと一緒にナルビク出たのは・・・もう二カ月か三か月ぐらい前になるのか・・・?
・・・。
キュピル
「・・・でもそろそろ帰らないと。」
ジェスター
「嫌」
その場で立ち止まってしまった。
・・・う~ん・・どうしようか。
・・・あ・・そうだ・・・!
キュピル
「そうだ、ジェスター。明日もまた写真取りにいくけどその時一緒に来る?」
ジェスター
「いいの?」
キュピル
「大丈夫。もう会社自体はほぼ休業したからね」
ジェスター
「やった!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる。なんだかこっちまで笑ってしまう。
キュピル
「さ、帰ろう」
ジェスター
「うん」
バイクに乗りジェスターを後ろに乗せる。
念のためジェスターとベルトを巻いておく。
そしてライディアから出発していった。
結局自宅についたのは夜9時だった。
バイクの鍵を会社に置こうとしたが扉の鍵自体が閉まっていた。
キュピル
「・・・・結局社長と部長に挨拶出来なかったなぁ・・・」
まぁ仕方ない。永遠に会えなくなるわけではない。自宅に帰ろう。
自宅に戻るとポストに何か入っていた。
結構分厚い書類と手紙と鍵が入っていた。
キュピル
「・・・?」
『働き者のキュピルへ
私達はもう今日の夜にナルビクを発ちます。
会社の鍵を同封しておくので好きに使ってください。機材の使い方はその分厚い書類に全て書いてあるので
参考にしてください。コロニーでまた会いましょう
byメリッサ」
キュピル
「感謝します、社長」
ジェスター
「眠い・・・」
キュピル
「眠い?ご飯どうする?」
ジェスター
「(・・・コク・・コク・・・)」
既にもう立ち寝状態に入っている。一日ぐらいご飯抜いても大丈夫だろう。
キュピル
「歯だけ磨いて今日はもう寝ようね」
ジェスターが頷く。
さて、明日からまた写真を撮りに行くぞー!
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